埼玉医科大学 臨床工学科

生体磁気工学研究室

スコ バグース トリスナント

Suko Bagus TRISNANTO

研究について

最新の研究テーマ

高感度生体磁気計測装置の開発

生体磁気計測装置は、心臓や脳における細胞・神経などの生体活動が生み出す微弱な磁場だけでなく、磁気特性を持つ生体由来分子(バイオマーカー)の磁化信号も非接触で測定できる装置です。生体磁気計測範囲に対しては、サブピコテスラ級の感度が必要とされています(図1)。そのため装置の高感度化には、地磁気を含む環境ノイズを抑える技術や、非常に弱い磁気信号を取り出すためのセンサ性能向上、信号処理の工夫が欠かせません(図2)。本研究では、心磁計・血液検査技術の開発を中心とし、医療現場での検査時間の短縮やコスト削減を目指す。こうした技術開発は、疾患の早期検出や効率的な診断を支える新しい医療機器の創出につながります。

図1.生体磁気計測範囲。細胞の活動電位による磁場および磁性を持つバイオマーカーは微小な磁気信号を発生する。地磁気よりはるかに小さいのため、高感度な磁気測定システムが求まれる。
図2.高感度な磁気測定システムの開発プロトコル。ピコテスラ級の磁気センサを用いて、心臓が発生する磁場を測定・画像化する技術は、身体的負担が少なく、非接触的心臓検査が期待される。

磁性ナノ粒子を用いた医療機器の開発

磁性ナノ粒子とは、直径が数ナノメートル程度の小さな磁性材料の構造です。通常の磁石とは異なり、サイズ効果により磁場に応じて磁化の向きが変わりやすくなります。磁性ナノ粒子は外部磁場の周波数によって異なる磁化応答を持っています。低い周波数では粒子回転が起き、高い周波数では磁気モーメントのダイナミクスが特徴的となります(図3)。この現象は複素磁化率というパラメータから分析できます。本研究では、磁気粒子イメージングや磁気粒子分光法などの次世代医療機器を開発しています(図4)。非線形磁化応答を用いて体内の粒子分布を高感度・高速に画像化し、磁化応答の高調波成分を基づいて粒子の量や状態などを精密に評価します。

図3.正弦波・パルス励磁下における磁性ナノ粒子の動的磁化特性。LLG方程式に従って、物理的回転、モーメント回転・歳差運動など周波数依存性振る舞いを持つ磁性ナノ粒子は、様々な生体医療応用につかれる。
図4.磁性ナノ粒子を用いた医療機器の開発。磁気粒子イメージングは、粒子位置を画像化し、神経血管疾患の脳診断への適応が期待される。磁気粒子分光法は、洗浄不要の液相アッセイとして検査時間を短縮する。

研究概要

当研究室では、次世代医療機器の革新につながるナノ磁性体及び生体磁気を活用した研究を進めています。これらの見えないモノ・チカラは、高度な計測技術によって可視化され、病気の初期診断などの医療応用へと展開しています。本研究では、材料科学・電気回路設計・データ解析技術を統合し、生体磁気や磁気バイオマーカー、磁性ナノ粒子の高感度磁気計測システム、及び信号処理・画像再構成アルゴリズムを構築しています。近年は、脳診断用の磁気粒子イメージング装置の開発に取り組み、機械学習や数値計算を用いて診断の効率化及び装置の小型化を目指しています。将来的には、集中治療室や救急車内でのベッドサイド診断への応用が期待されます。

教員からメッセージ

研究室での時間は、知識・能力を“受け継ぐ”だけでなく、自分の手で未来を切り拓く経験の連続です。当研究室では、少しずつ「できること」を広げていくことを大切にしています。ものづくりや実験、データの扱い方を通して、考える力が自然と身につきます。日々のコミュニケーションで英語に触れる機会もあり、国際的な視点を持つことで研究生活がより楽しくなります。

研究業績

磁気粒子イメージングについて:
1) S. B. Trisnanto et al, “Phase-sensitive detection of third-harmonic magnetization signal using magnetoresistive sensor-coupled asymmetric gradiometer”, Int. J. Mag. Part. Imag. 11, 250310 Suppl 1 (2025). Open Access
2) S. B. Trisnanto et al, “Configuring magnetoresistive sensor array for head-sized magnetic particle imaging”, Int. J. Mag. Part. Imag. 9, 2303086 Suppl 1 (2023). Open Access
3) S. B. Trisnanto et al, “Magnetic particle imaging using linear magnetization response-driven harmonic signal of magnetoresistive sensor”, Appl. Phys. Express 14, 095001 (2021). Open Access
4) S. B. Trisnanto & Y. Takemura, “High-frequency Néel relaxation response for submillimeter magnetic particle imaging under low field gradient”, Phys. Rev. Appl. 14, 064065 (2020). Open Access

磁性ナノ粒子について:
1) M. Li, S. B. Trisnanto et al, “Microwave susceptibility analysis of ultrafast moment dynamics in a multicore magnetic nanoparticle system”, Phys. Rev. B 110, 064421 (2024). Open Access
2) S. B. Trisnanto & Y. Takemura, “Complex magnetization harmonics of polydispersive magnetic nanoclusters”, Nanomaterials 8, 424 (2018). Open Access
3) S. B. Trisnanto et al, “Two-step relaxation process of colloidal magnetic nanoclusters under pulsed fields”, Appl. Phys. Exp. 11, 075001 (2018). Open Access